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スクリーンに投影されるアメリカ
「九月十一日以降のアメリカを考える」
岩本裕子著
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2001年9月11日、ニューヨーク。世界貿易センタービル崩壊の瞬間を、世界中が映画の一場面を観るかのように見守った。あの衝撃的な「テロ事件」から展開した歴史の流れ。氾濫する情報のなかで、私たちがもつアメリカへの認識は正しいだろうか。複雑なアメリカ社会を改めて見つめることは、決して他人事ではない、世界の今を考えることでもある。
著者の専門分野である米国史をからめながら、「大統領」「民族」「宗教」「人種」「ニューヨーク」をキーワードに、映画を通して「9月11日」以降のアメリカ社会と世界が向かう方向を考察した力作。
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初版2003年9月17日 ISBN4-944098-41-3 C0074
A5判/256頁●定価 1,944円(税込) |
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第1部●合衆国大統領の特異性
●大統領をめぐる断章
●映画になった大統領
●イラク戦争を見すえる
●核廃絶への遠い道のり
<コラム:合衆国への賛歌/コミック・スターたち>
第2部●人種複合国家の背景
●足で渡ったモンゴロイド系
●現代を生きるインディアン
●船で運ばれたネグロイド系
●黒人俳優とアカデミー賞
<コラム:ドキュメンタリー作品/CATV製作の黒人映画>
第3部●民族的アイデンティティから愛国心へ
●アイルランド系移民のルーツ
●アイルランド系の宿命と悲哀
●イタリア系移民の家族愛
●二十世紀のイタリア系アメリカ人
<コラム:クラシックをBGMに/オペラを観る>
第4部●宗教に立脚する人々
●ユダヤという民族
●映画と「ジュー」ヨーク
●民族の屈辱「ホロコースト」
●イスラム教を映画に学ぶ
<コラム:大天使と堕天使/黒人教会を訪ねる>
補遺●マンハッタン歴史散歩
●1 先史時代、欧州の古代と中世を疑似体験
●2 足で確認する合衆国最初の首都時代(一七八四〜九〇)
●3 先住民インディアンと黒人、民族と宗教の実感体験
●4 夜は連日ミュージカル! 黒人女優の活躍
●5 マンハッタンを欲張るなら
●あとがき
●映画タイトル索引
●参考文献一覧
合衆国への賛歌
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「九月十一日」直後、冷静さを欠いた合衆国では、ラジオ局は事件を連想させる題名や内容の曲を規制する措置をとった。約百五十曲の放送自粛曲のなかには、映画『アルマゲドン』のなかで、地球を飛び立つ飛行士たちが自らの気持ちを代弁して歌った「悲しみのジェットプレーン」のように、納得いくものもあった。だが、ジョン・レノンの「イマジン」、サッチモの「この素晴らしき世界」、はてはニューヨーク市歌「ニューヨーク・ニューヨーク」まで規制した意図は何だったのだろうか。
一方で、努めて歌う回数の増えた曲もある。連邦議員たちが国会議事堂の前で歌い、直後に開催された各種チャリティ・コンサートでは、全員が合唱するテーマ曲ともなった「ゴッド・ブレス・アメリカ」である。合衆国は神に守られていると誇示したかったのだろうか。この歌は、ベトナム反戦映画の一つである『ディア・ハンター』のラスト・シーンで、主人公の若者たちが合唱した曲でもある。
合衆国礼賛の曲ならばその曲名通り「アメリカ・ザ・ビューティフル」もチャリティ・コンサート定番曲となった。一九九七年一月のクリントン大統領二期就任式において、アメリカを代表するオペラ歌手ジェシー・ノーマンが熱唱したのもこの曲だった。一期就任式でも詩人マヤ・アンジェロウに合衆国礼賛の詩を依頼したように、クリントンは二人の黒人女性に檜舞台を提供したのだった。ジェシー・ノーマンは、一九八九年にフランスからの招待で、パリの凱旋門前で開催された大革命二百周年記念の式典でもフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」を絶唱した。
事件後の応援歌には、当然ながら合衆国国歌も含まれていた。フランス国歌同様に戦時下で生まれた国歌「星条旗」は、一八一二年戦争の苦戦中にマッケンリー砦にたなびく国旗への愛情を歌った曲だった。「九月十一日」直後の合衆国では、国内の戦争反対の声を隠し、アフガン攻撃を正当化する手段として賛歌を用いたように思えてならない。(P55コラムより) |
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岩本裕子 いわもとひろこ
1977年、津田塾大学(アメリカ研究)卒業後9年目に立教大学大学院(西洋史専攻)へ進学。2006年、同大学院で博士(比較文明学)学位取得。現在、浦和大学こども学部教授。著書は『アメリカ黒人女性の歴史』(明石書店)他、共著に『アメリカフェミニズムのパイオニアたち』(彩流社)など多数。
●主な著作
『アメリカ黒人女性の歴史』(明石書店)
『アメリカ研究とジェンダー』(共著、世界思想社)
『スクリーンで旅するアメリカ』(メタ・ブレーン)
『スクリーンに見る黒人女性』(メタ・ブレーン)
『語り継ぐ黒人女性』(メタ・ブレーン)
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