スクリーンに見る黒人女性

岩本裕子著

黒人たちが生きるアメリカ社会の暗闇の中で、つねに希望という光をもちつづけていたのは、女性だった---。映画を通して、スクリーンやその裏側に存在する、さまざまな時代と境遇に立ち向かう黒人女性たちの前向きに「生きる」姿を、年代順に丁寧に追った力作。母として、妻として、そして女として、強く、ひたむきに生きる彼女たちの姿に、共感と勇気を与えられる一冊。

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初版1999年9月25日 ISBN4-944098-29-4 C0074
A5判/256頁●定価 1,944円(税込)

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第1部〈19世紀末まで〉人間としての、目覚め
 アフリカの大地から奴隷船に乗せられて
 アカデミー賞で初めて評価された黒人女性
 「ジェマイマおばさん」というステレオ・タイプ
 奴隷制度から解放された女性の生きる道

第2部〈20世紀前半〉苦境に芽生えた、プライド
 人種差別を拒否してフランスへ
 差別への怒りを「奇妙な果実」に託して
 黒人社会の内部告発
 シスター・フッドとアフリカへの想い

第3部〈20世紀半ば〉魂を見すえる、行動
 悲劇の中の勇気、エメット・ティル少年殺害事件
 草の根運動に見る、底辺の広がり
 正義を追求し続けたエヴァーズ夫人
 「ソウルの女王」の成功と転落、そしてカムバック

第4部〈1990年代〉解き放たれた、感性
 スパイク・リー監督に見る黒人女性観
 若手男性監督が描く黒人女性
 人気歌手からハリウッド女優へ
 白人監督の憧れの黒人女優

第5部〈21世紀へ向けて〉明日を変えていく、自信
 黒人女性が創る自らのための映像
 母から娘へ、家族という絆
 黒人女性作家のベスト・セラー映画
 人種意識からの脱皮と南部への帰還

アメリカ黒人をめぐる歴史(年表)
映画タイトル索引
人名索引

文中にスチール写真、下段に注記、映画のビデオ・パンフレット写真、解説なども。
女優ハッティ・マクダニエル
(風と共に去りぬ:1939)

かつて「ハリウッド映画史上、最高の観客動員数を記録した恋愛映画」「永遠の名作」「アメリカ人が歴史上最も愛する映画」と評された『風と共に去りぬ』は、現在の合衆国では人種差別映画の烙印を押され、公的な場所では上映できず、ベスト・ワン映画にも挙げることはできない。
『風と共に去りぬ』を愛する日本人ファンも、南部史や黒人史を踏まえたうえでもう一度映画を観ると、愛し方が変わるかもしれない。映画を黒人の視点から見直す一例を挙げておきたい。乳母マシィ、プリシー、クッキー、ポークじいや、ピーターじいや、ビッグ・サムといった黒人奴隷が、白人農園主に忠誠を尽くす姿を映画に見ることができるが、黒人観客は我慢できないのだろうか。公民権運動の結果『風と共に去りぬ』はアメリカ社会で人種差別映画との評価をされ、上映禁止へとつながっていった。
「『風と共に去りぬ』で登場した家族の面倒をみる太った黒人奴隷の女中には存在感があったが、以来登場した映画のなかの黒人は、いつも下っ端でその他大勢の脇役であった」とは、長坂寿久氏の著作『映画、見てますか―スクリーンから読む90年代のアメリカ』の一文である。
映画の最初のあたりで、スカーレットのウエストを思いきり締めて細く見せる手伝いをする、しつけの厳しい乳母マシィの役を演じたのは「ハッティ・マクダニエル」という黒人女優である。ハッティは、この乳母役でアカデミー最優秀助演女優賞を獲得している。
1895年生まれの彼女は、乳母マシィを演じたときには44歳だったことになる。南部農園の家内奴隷を演じきったハッティは、実際は南部の出身ではなく、カンザス州生まれでコロラド州で育ったため『風と共に去りぬ』出演のために南部なまりを勉強しなければならなかったほどであった。彼女は1931年に兄弟たちに誘われるまま、ロサンゼルスへ移りコーラス歌手としての仕事を細々と続けていた。映画でメイド役することもあったが、給料の安さに現実にもメイドのアルバイトをしていたという。
1939年に乳母役を手に入れるまでのハッティは、すでに50本を越える映画でメイド役をこなし、36年の一年間だけでも14本の映画に出演していた。メイド役で定評を得たハッティが『風と共に去りぬ』で乳母役を獲得したことも当然の結果だったのだろうが、彼女が最優秀助演女優賞に満足したかどうかは別項で考えたい。 (P24〜35「アカデミー賞で初めて評価された黒人女性」より抜粋)

岩本裕子 いわもとひろこ
1977年、津田塾大学(アメリカ研究)卒業後9年目に立教大学大学院(西洋史専攻)へ進学。2006年、同大学院で博士(比較文明学)学位取得。現在、浦和大学こども学部教授。著書は『アメリカ黒人女性の歴史』(明石書店)他、共著に『アメリカフェミニズムのパイオニアたち』(彩流社)など多数。

主な著作
『アメリカ黒人女性の歴史』(明石図書)
『アメリカ研究とジェンダー』(共著、世界思想社)
『スクリーンで旅するアメリカ』(メタ・ブレーン)
『スクリーンに投影されるアメリカ』(メタ・ブレーン)
『語り継ぐ黒人女性』(メタ・ブレーン)

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