「自然に産む、産まれる」ということ アクア・バースハウス 代表助産師 山村
節子
私は助産師になったらいつか開業したいという夢を抱いておりました。
そして、平成7年7月1日、ついに夢がかない、「世田谷バースハウス」が誕生。それは、世田谷の松蔭神社近くにある古家でのスタート。
女性が自分なりの出産を求めて、ひとりでも多く、この助産所の門を叩いていただけたらとのんびり構えておりましたが、幸運にも私の予想を越え、ここで出産したいという、たくさんの女性に来ていただけるようになりました。出産した方がまた別の女性を連れて来てくださり、徐々にその数も増え、古家が一杯になるほど。そこで、もう少し広い場所を探すことになり、平成10年4月、現在の「アクア・バースハウス」が桜丘に完成したのです。少しでも陣痛を楽に、しかも気持ちよく出産したいという女性の本能でしょうか、水中出産が大変人気がありましたので、水を利用することから「アクア」と改名しました。幸せなことに、開業以来1100人の赤ちゃんが誕生しています。
そもそも、「出産」は人間にとって自然なことであり、太古の昔から女性は子産み子育てをしてまいりました。本来は「自然出産」という名詞は存在しないように思います。なぜなら、出産は自然であたり前なことだからです。新しい生命の誕生は女性や家族にとって、尊厳と喜びと緊張の瞬間なのです。
また、女性にとってそれは誇りであり、かけがえのない体験です。何者にも侵されることのない、ひとりひとりの大切なドラマなのです。とくに女性にとっては、その後の人生さえ変えてしまうほどの大変革でもあります。そして、永遠に忘れることができない体験なのです。
助産師としての仕事は、この塗り替えられない出産の場を大切にすることが基本です。第一のステージは、妊娠からクライマックスの出産まで、女性とどのように向き合うか。第二のステージは、育児への船出をどこまで手助けしたらよいか。第三のステージは、母乳育児が母子の関係を新たにつむぐその過程を、どのように、どこまで見守れるか。これらのことを行なっていくのが助産師であり、終わりはなく、この日常が繰り返されていきます。私も、助産師として力のおよぶ限り、このような女性とともに歩みつづけたい。また、若き有能な助産師たちが巣立ち、次の世代へとこの仕事が伝承されていくことを願っております。
この10年間で学んだことは、「出産」は自然現象であり、人間の手が自然のメカニズムを侵すことなく、女性に備わっている本来の「産む」力を支え、励まし、見守る姿勢と、それと同時に、赤ちゃんが「産まれる」、その生命力を信じることでした。
もうひとつ大切なことは、お産はひとりひとりみな違うということ。その女性の生き方を尊重し、安心して、本能のまま産める環境づくりが重要であるということです。
自然な陣痛さえも取り去ったお産を求めることなく、陣痛と上手に付き合い、自分の力で「産む」ことの素晴らしさと喜びを、ひとりでも多くの女性に体験していただきたいと思います。また、赤ちゃんの「産まれる」命をみんなで支え、尊重できるよう願って止みません。
最後に、ここで出産された方々の体験記すべてをこの本に掲載しきれなかったことをお詫びするとともに、これから繰り広げられる「出産」のドラマをみなさんとともに見てまいりましょう。それでは、はじまり、はじまり。
(P3〜5より抜粋)
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